掛け軸のカビを防ぐ保管方法

掛け軸というと、床の間を飾るものというイメージがありますよね。

日本の住宅から床の間は減っており、掛け軸の出番が減っているなんて声も耳にします。

掛け軸は床の間が出現した室町時代よりもはるか昔からあり、その時代の生活様式や建築様式に合った掛け軸に仕立てられ、多くの人に親しまれてきました。

掛け軸は湿気に弱く、乾燥しすぎても傷んでしまうこともあり、取り扱いに注意が必要なものです。

しかし、掛け軸はほんのひと手間と工夫で長い年月にわたって楽しむことができます

今回は掛け軸のカビ予防方法から保管の仕方等をご紹介していきます。

掛け軸にカビが生える原因とは?

カビが発生する条件は温度20℃~30℃、湿度60%以上、ホコリや汚れなどのカビにとっての栄養分の3つの要素がそろうことです。

掛け軸は裂と呼ばれる布と和紙でできており、裂は布なのでカビが発生したり、色あせやシミができることがあります。和紙は作品の保護、乾湿による伸び縮みを軽減、壁の湿気から掛け軸を守るという役割をしています。

掛け軸はこのように温度や湿度に敏感なデリケートな物なのです。

掛け軸が湿気を吸収し、そこにホコリや汚れが付着することでカビが発生します。

掛け軸をかけている壁にかけている場合には、その壁にカビが発生しており、掛け軸にカビが移ってしまうということもあります。

掛け軸の近くに植物などを置いている場合にも、水分や花粉などを吸収、付着しカビが発生することがあります。

掛け軸に触れる際に、濡れた手や汚れた手で触れてしまうのもカビやシミの原因となりますので注意が必要です。

また、掛け軸を箱にしまう場合にも、湿気を含んだまましまうと箱の中でカビが発生してしまいます。

掛け軸を保管している場所の温度と湿度の管理、清潔な環境を維持することがカビを予防するためにとても大切です。

掛け軸にカビが発生してしまったら

掛け軸はとても繊細なので、自力でカビを除去しようとして掛け軸が損傷してしまうおそれがあります

掛け軸は汚破損によって価値も落ちてしまいますので「専門業者に依頼して補修した方が良い」でしょう。

掛け軸のカビ予防方法

1、湿度管理をしましょう。

掛け軸をかける部屋は風通しが良く、湿気の少ない部屋がおすすめです。

冷房の風が直撃したり、窓の近くは結露などで湿気を吸収しやすくなりますので気を付けましょう。

湿度は体感ではわかりにくい場合もあるので、湿度計を設置し、湿度が60%以下になるように心がけましょう。

湿度が高い場合には、晴れた日に窓を開けて換気したり、除湿機やエアコンのドライ運転などで湿度を下げることができます。

その他にも湿度を下げる方法としては、扇風機やサーキュレーターを回して空気を循環させることで湿気が滞留するのを防ぐことができます。

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出典: Amazon

2、掛け軸を飾っている部屋の掃除をしましょう。

刷毛を用意し、壁などのカビの栄養源となるホコリを払い落します。

払い落としたホコリは掃除機で吸い取りましょう。

また、空気清浄機を使用すると、空気中のホコリやカビの胞子が減るので、おススメです。

3、保管は桐箱に。

掛け軸は湿気や直射日光を嫌います

保管する際はよく晴れて湿度の低い日を選びましょう。

掛け軸を保管する際には、刷毛でホコリを払い、和紙などで包み桐箱に収納するようにしましょう。

和紙は古くなってきたら新しいものに交換するようにしましょう。

さらに、掛け軸を収納した桐箱は風通しが良く湿度の低い場所に保管するとより安心です。

保管場所は定期的な掃除をし、カビの栄養源となるホコリや汚れを除去するようにしましょう。

●掛け軸をより安全に保管するための道具の項目

4、定期的な虫干しを。

掛け軸を桐箱にしまったままにしていませんか?

掛け軸はしまったままにしてしまうとカビが発生したり、傷んでしまうことがあります。

3か月に1度程度、箱から出して虫干しをするようにしましょう。

定期的な虫干しをすることで万が一カビが発生していても早期発見につながります。

掛け軸の取り扱いで注意すべき点

掛け軸はかける場所や取り扱いでカビ以外にも注意すべき点があります。

掛け軸は長期間壁にかけたままにすると紐に負担がかかり切れて落下する原因になります。

古い掛け軸などは紐も古くなっていないか確認し、落下による破損を防ぎましょう。

掛け軸はときどき巻いて休ませるようにしましょう。

掛け軸をかける場所は直射日光が当たらない場所にしましょう。

直射日光が掛け軸に当たると乾燥や日焼けによる変色やシミの原因となります。

掛け軸の掛け方の手順と注意点

①巻緒を解き、巻紙を取ります。

巻緒が正しく結ばれていれば、右の紐を引くだけで解けます。

②掛け軸の本紙が見えない程度にひろげます。

掛け軸をかける際に、もし落下しても本紙に及ばないためです。

掛緒の真ん中を矢筈の先に掛けます。

③利き手と逆の手で軸中を受けて持ち、利き手で矢筈を持って、掛緒を掛け金具に掛けます。

④矢筈をはずして、両手で軸端を持ち、ゆっくりとおろします。

最後まで軸先の手は離さないようにしましょう。

※注意点※

掛け軸を触るときにはきれいな手で行うようにしましょう。

掛けるときに掛け軸が落下すると破損の原因になりますので落とさないように注意しましょう。

掛け軸のしまい方の手順

基本的にはしまうときは掛けるときの逆を行います。

①両手で軸端を持ち、本紙が見えなくなるぐらいまで巻き上げます。

②手の甲が上にくるように利き手で軸を握り、反対の手で矢筈を掛緒に掛け、取り外します。

③平らなところに置き、矢筈を外します。

④軸端を持って、強く締め付けないように注意し、ゆったりと丁寧に巻きあげます。

掛け軸を安全に保管するための道具

太巻

絵具が厚く塗られた作品や、細く巻くと破損するおそれのある掛け軸に用いられるのが太巻です。

太巻を掛け軸の芯にして巻くことで太く巻くことができ、破損を解消するだけでなく巻き癖がつきにくくなるメリットもあります。

ボウル紙などを利用して自分で簡易太巻を作って使用するのも良いでしょう。

軸箱

掛け軸を保管または携帯するときの箱です。

材質は主に桐で軽くて丈夫なだけでなく、温度や湿度を一定に保つ効果があることから掛け軸の保管に適しています。

揉み紙

掛け軸を箱に収納する際に、軸を保護するために包む紙です。

揉み紙以外にも羽二重やウコンで染めた木綿布で包む方法もあります。

掛け軸のカビは専門家への相談が安心です。

掛け軸のカビは自力で除去するのは素人にはとても難しく、掛け軸を破損してしまうこともあります。

掛け軸のカビ取り金額はカビや修復の度合いにより変わるので、一度相談して見積もりを出してもらってから検討してみるのも良いかもしれません。

まとめ

・掛け軸にカビが生える原因は湿気と汚れによるものです。

・掛け軸のカビ取りはできるだけ専門家に依頼しましょう。

・デリケートな素材ですのでお手入れは慎重に行いましょう。

・掛け軸は保管方法に注意すればカビを予防することができます。

<参考文献>

・藤井弘之『表装上達レッスン 掛軸 作品の魅力を引き立てるコツ』2019年、メイツ出版

・小池丑蔵『裏打・掛軸教室』2008年、日貿出版社

・広島県立文書館『文書に発生したカビの除去方法』2010年

・京都国立博物館『美を伝える 京都国立博物館文化財保存修理所の現場から』2011年、京都新聞出版センター