本に生えたカビやシミの違いってあるの?生えたときの除去方法は?

昔買った本を久しぶりに手に取ってみると所々に白い粉っぽいものや黒や黄色の汚れが付いている

そんな経験はありませんか?

  • カビなのかシミなのか、取れるなら取りたいけれど可能なのか?
  • 本のカビ取りをして本が傷まないか?
  • 本など紙類のカビを防ぐ保管方法はないか?

紙類は傷みやすくデリケートな素材ですので、扱い方も気になるところです。

そこで今回は本のカビとシミの違いとその除去方法についてお伝えしていきます。

1.本のカビとシミの見分け方はあるの?

本のカビとシミの違い、と言いましたが実のところこれらを見分けるのは難しいです。というのも、本のシミはシミでありカビでもあるからです。どういうことなのか詳しく解説していきたいと思います。

本に着いた汚れは大きく次の5つに分けることができます。

① 紫外線による変色

② 皮脂や手垢、食べ物が付着してできたシミ

③ 保管状態の悪さによりできたカビ

④ カビの代謝産生によりできたシミ

⑤ 皮脂や手垢、食べ物のシミを栄養源として生育したカビ 

1-1.紫外線による変色

紫外線により本が変色することがあります。本は紫外線にさらされると黄色く変色します。

紫外線による変色はシミのように点在しているというよりも本を閉じたときの3辺(天・地・小口)全体がまんべんなく黄ばんだ状態になっていることが多いです。そして本を開けば中は比較的キレイな状態であることも多いのが特徴です。日の当たるところに保管していた心当たりがあれば紫外線による変色と考えてよいでしょう。

1-2.皮脂や手垢、食べ物が付着してできたシミ

素手で本に触ると少なからず皮脂や手垢が付着します。

それらは時間の経過とともに酸化し黄ばんでいきます。それがやがてシミとなって現れるのです。またコーヒーをこぼしてしまったりスナック菓子を食べながら本を読んだりしているとそれもまたシミになってしまいます。これらのように外的にもたらされた汚れによるシミは酸化して黄色っぽい色をしていたり、付着した食べ物の色をしていることが多いです。形もいびつで様々です。

1^3.保管状態の悪さによりできたカビ

多くのカビは湿度80%以上で繁殖しますが、本に生えるカビは湿度が70%程度でも生育が可能な好乾性カビが生えます。本が棚にぎゅうぎゅうになっていたり狭い部屋に乱雑に積み重ねてあったり、通気性の悪いケースに保管していたりすると空気の通りが悪くなり本にカビが生えてしまいます。

さらに本に付着した埃や本の紙自体を栄養源にしてカビは繁殖していきます。白く粉っぽい状態のものや黒や青の細かな斑点と色や大きさはさまざまですが比較的きれいな円形をしている場合が多いです。臭いをかいでみるとカビ特有のカビ臭さがします。

1-4.カビの代謝産物によりできたシミ

古い本に黄色いシミや茶褐色の斑点ができているのを見たことがある方も多いと思います。シミなのかカビなのか判断に迷う見た目をしています。

これはカビが産生する酸が原因でできたものでフォクシングと呼ばれます。カビが増殖する過程で菌糸の周辺に有機酸が代謝生成され、本の紙の繊維の間に蓄積されます。そのうち紙が酸分解してブドウ糖などが生成されます。またカビが増殖する過程でアミノ酸も生成されます。この結果ブドウ糖と有機酸の間にメイラード反応が起き、フォクシングとなるのです。そのためフォクシングがある=カビが存在すると考えてよいでしょう。カビであることからコロニー(集落)を形成しているため、単純に汚れたシミのようにまんべんなく広がっているのではなく斑点が点在しているのが特徴です。臭いも埃っぽくカビ臭さがあります。

1-5.皮脂や手垢、食べ物のシミを栄養源として生育したカビ

カビは人の皮脂や手垢、本に付着した食べカスや埃などを栄養源にして生育します。図書館で飲食が禁止されているのはこういった理由からになります。本に皮脂や手垢が付着し、シミになりやがてそこに重なるようにカビが生えます。さらにカビの増殖が進むことでさきほどのフォクシングもできてしまうこともあります。

このように本にはシミのみ、カビのみが単体で存在している場合とシミが原因でカビが発生していることもあればカビが元でシミができていることもあるのです。そして多くの方が目にしたことがあると思われる黄色や茶褐色の汚れはフォクシングと呼ばれる現象でカビの代謝産物なのです。

2.本のシミを放置していると起こること

カビが生えていても、あまり読まない本だし取らなくてもさして支障はないからとそのままにしていませんか?

カビが生えた本を放置しているとカビがひどくなるのはもちろんのこと、アレルギーのような症状を発症してしまい健康に悪影響を及ぼすことがあります。

さらに、虫も発生しやすくなります。本につく虫には主に「シバンムシ」「チャタテムシ」「シミ(紙魚)」の3種類がいます。中でもチャタテムシは多湿の場所を好みカビや埃を栄養源にしています。シミ(紙魚)は本の装丁に使われる糊や埃を好んで食べます。シバンムシはカビと同じ22~30℃程度の温度を好み、本に限らず食品や畳、ドライフラワーなど乾燥したものを好んで食べます。他の虫と違い本の表面を削る程度ではなく本に穴をあけてしまうほどの被害を出すことがあります。

カビが存在する環境は同時に虫も寄せ付けてしまうのです。

本を開いたらカビだけでなく虫まで出てきたらゾッとしてしまいますよね。では、実際に本にシミやカビを見つけたらどうしたらよいのでしょうか。洗うわけにもいかないし・・・手はないのでしょうか。

3.本のシミやカビを落とす方法

ここからは本のシミやカビの除去方法についてお伝えしていきます。初めに、本のシミとカビは見分けるのが難しいと言いましたが、どちらであっても基本的に除去方法は同じなのです。見分けがつかなければカビだと思って対処しましょう。本のカビ・シミの除去に必要なものは次の通りです。

~用意するもの~

  • マスク
  • ゴム手袋
  • ゴーグル
  • 本が入る大きさのビニール袋
  • 消毒用エタノールと無水エタノールのいずれかまたは両方
  • 乾いた布またはペーパータオル
  • ハケ
  • 目の細かい紙やすりまたは消しゴム

健栄製薬 消毒用エタノール

出典:amazon

健栄製薬 無水エタノール

出典:amazon

3-1.本のシミやカビを取る手順

では、カビ・シミ取りの手順です。

~手順~

① カビの胞子を吸ったり触れたりしないようマスク、ゴム手袋、ゴーグルを着けて身体を保護します。

② カビが生えた本をビニール袋に入れて屋外または風通しの良い別室に移動させます。

③ 乾いた布またはペーパータオルにエタノールをふくませや優しく一方向にカビを拭き取ります。(表紙やコーティングされた紙には消毒用エタノールを、それ以外は無水エタノールを使用)

④ 吹き上げた部分をハケで払い落とす。

これらの工程でカビの除去は完了ですがカビの色素やフォクシングによるシミ、紫外線による天・地・小口の黄ばみや食べこぼしのシミなどは残っています。

これらをきれいにするには紙やすりや消しゴムを使います。方法は、シミ汚れや黄ばみがある部分を紙やすりや消しゴムを使ってやさしく一方向に擦ります。この際、こすりすぎに注意してください。

擦りすぎると本が破れてしまったり厚みが変わって本全体が小さくなってしまうことがあります。削った跡が分かると古本屋さんなどでも引き取ってもらいにくくなります。完全に取り除けなくてもある程度のところでストップしましょう。終わったらハケを使って削りカスを払います。使用した紙やすりや消しゴムはカビの胞子がついている可能性もあるので使い終わったら破棄します。

以上が本に生えたカビ・シミの除去方法です。

3-2.カビ落としの際の注意点

使用するエタノールについてですが、市販されているエタノールには「無水エタノール」と「消毒用エタノール」があります。無水は文字通り水を含まない100%エタノールです。消毒用エタノールは70~80%程度に希釈されています。消毒用のほうが適度な揮発と浸透力で殺菌効果も高いと言われています。消毒用エタノール一つで済めばよいのですが、水分を含むものを紙に使用するとふやけてしまいます

そのため、表紙やカバーなどコーティングされた紙には消毒用、それ以外の部分や大量に使う場合には無水エタノールを使用しましょう。また、本のシミ・カビ取りに

  • 漂白剤を使用
  • カビを掃除機で吸い取る
  • 水拭きする

といった行為はNGです。漂白剤を使用すると印字が消えてしまったり古本の場合は本の劣化を早めてしまったりすることがあります。また、カビを掃除機で吸い取る行為もやめましょう。

周囲にカビの胞子をまき散らしてしまいますし、掃除機内にカビが溜まってしまいます。図書館やカビ取り専門業者が専用の機械を使ってカビを吸引することがありますが家庭用の掃除機では胞子を撒き散らしてしまうだけなのでやめましょう。もちろん水拭きは紙をふやけさせてしまうのでやめましょう。

4.本のシミやカビを防ぐ保管方法

除去部分が小さければよいのですが何ページにもわたって広がっているとカビ取り専用機器をもたない一般の人にとっては大変な労力です。

そのような思いをしないよう日頃からカビを生やさない環境を作ることが大切になります。ここからは本のカビ対策についてお伝えしていきます。本のカビ・シミ対策には次のようなことを心掛けてみてください。

4-1.対策①湿度の高い場所、日光の当たる場所に保管しない

湿度は60%以下の場所で保管し、本の日焼け防止のために日光の当たりやすい窓際での保管は避けましょう。

4-2.対策②こまめに本棚の掃除や保管場所の換気をする

カビの栄養源となる埃はこまめに掃除し、できるだけきれいなを維持しましょう。定期的に本棚に収納している本を取り出し、風通しの良いところで乾燥させましょう。

4-3.対策③本棚と壁に隙間をつくる

通気性が悪いとカビが生えやすくなります。本棚と壁が密着している場合は間に隙間をつくりましょう。

4-4.対策④本を扱うときは手袋をする

面倒かもしれませんが、特に大切な古本などは手袋を使うことで皮脂や手垢がつきシミになったりカビが生える防ぐことができます。大切な本であればなおさら手袋をつけて扱うことをおすすめします。

4-5.対策⑤必要に応じて空気清浄機やサーキュレーターを使う

本をたくさんお持ちで本専用の部屋があるような方は空気清浄機を使って埃やカビの胞子を吸い込んだりサーキュレーターを使って空気を循環させたりする方法もあります。本が多いと掃除にも手が回らなくなってしまいがちですがこれらのアイテムを使うことで掃除にかかる労力を減らすことができますし本のカビを防ぐこともできます。

まとめ

今回は本のカビとシミの違い、その除去方法についてお伝えしてきましたがまとめると、

●本のカビとシミをはっきりと分けることは難しく、カビがシミを作り、シミがカビを繁殖させることがある。

●本のカビを放置していると虫が発生することがある。

●本のカビ・シミ取りに漂白剤は使わない。

●本のカビ取りには消毒用エタノールと無水エタノールを使い分ける。シミ取りには紙やすりや消しゴムを使う。

●本のカビを防ぐにはこまめな掃除と換気、湿気対策が大事

となります。

 本は一度読むと次に開くまでに期間が開くこともよくあります。放置している期間が長くなるからこそ、こまめに本の状態をチェックする習慣をつけていきましょう。

【参考】

●カビが発生したら 東京都立図書館

●書籍・資料のカビとその対策 東京大学

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